彼女が空からやってくる

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「ようやくここまで来ましたね総理」  脇にいる補佐官が感慨深さから、メガネを外して涙を拭う。 「なに、まだまだこれからさ」 「ですが、これで世界はひとつにまとまるんです。過去、誰も成し得ることができなかった、人々の夢が叶うんです。誰も飢えず、争いのない世界が目の前にひろがっているんです」  それはさもすばらしい世界だろうと感激屋の彼は、二枚目のハンカチをとりだしている。  かつて篠崎一歩だった俺は、あの後、天使を詐称する美少女にムーベとかいう光線銃で撃たれて命を奪われた。  そして、その命は政界に強い影響力をもった家系の息子へと引き継がれた……篠崎一歩であった頃の記憶を残したままに。  連中にとって、地球人類の命とは、まだ研究途中で未知なものだった。俺と出合ったあの美少女の反応からしてもそれはまちがいない。  故に、命の定義に魂も含めたのだろう。あるいは単に区別がつかなかっただけなのか。  記憶が魂に刻まれるのかという話は置いておいて、とにかく俺は篠崎一歩の記憶と経験を持ちながら、まったく別人の……それも裕福な家庭で残りの半生をやり続けることとなった。  その先、地球人類が迎える世界図を知り、それを実現させる為に。  困難がなかったわけじゃない。  むしろ、目標を達するために行った数々の事は困難で当たり前、大困難もちょくちょくあるくらい波乱にみちていた。  だが、どれもが努力と人知の及ぶ範囲のものだ。  だったら、克服できないわけがなく、こうして世界統一も成し遂げてみせたのだ。 「ほら、いつまで泣いているつもりだい。まだ、目標は達成できていないんだ。人類の平和程度で終わりじゃないぞ」  俺の言葉に秘書官は不抜けた顔をしている。 「これから、我々は特別なお客様をお迎えしなくてはならない。そのために、最高のおもてなしを準備しなければならない」 「特別なお客様ですか?」  そんな予定はないだろうと首を傾げる彼に、こっそりと告げる。 「実は天使様から、そのうち遊びにくるから準備しておいてねって言われているのさ」と。  そして俺は、自らの心を奪った美少女との再会するため、念を入れた歓迎パーティーを企画するのだった。   〈了〉
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