彼女が空からやってくる

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 小首を傾げてたずねる様子に、思わず「よろこんで!」と答えそうになるのを必死に抑える。  美少女の願いは叶えてはあげたいものの、さすがに死ぬのはゴメンだ。  それに美少女の言う「ちょっと」は、「ちょっとの間」という意味ではなく「ちょっとの手間暇で」という感じの意味だろう。ならば、なおのこと従えるわけがない。  なので、とうぜん俺の答えは「ごめんなさい」一択なわけだが……それでこの美少女は俺の死をあきらめてくれるだろうか。  …………わからない。  だが、いきなり問答無用で殺しに来ていない以上、交渉の余地はあるとみていいだろう。  思慮深い俺は、相手が超絶的な美少女であることにまったくもってこれっぽっちも関係なく、もう少しだけ話を続けることにした。 「あの……」  俺がそう口を開きかけた瞬間、眼前を黄色い稲妻が横切る。  直後、背後でギュルギュルギュルギュルという、訳のわからん擬音が発せられた。  再び振り返ると、さっきまであった大きな鉄塔がまるまる一本姿を消していた。代わりに鉄塔と同色な硬球サイズの球体があるのだけど、なにか因果関係があるのだろうか? 「ごめんなさい、大丈夫ですか!?」  本人にも予想外の結果だったのか、美少女は驚くほどの俊敏さで俺の眼前までやってくる。  そして、直接触れようとはしないものの、あちこちをつぶさに観察する。  至近距離であるにもかかわらず、不思議と相手の臭いや体温は感じられない。  だけど近くでみるとその肌のなめらかさ、隙のないほど完璧な造形がより高い精度で感じられる。  それこそ、たったいま自分が殺されそうになったことがどうでもよく思えるほどだ。 「よかった。命に別状はないようですね」  ひととおりの観察を終えた美少女は、安心したように言う。  でも、それって見ただけで判断できないのか。微細な怪我とかならともかく、命に影響するような状態じゃないのは一目瞭然だ。  そもそもとして、俺の死を願うなら怪我くらいしてもかまわないだろうに。 「あやうく、地球に残されたたったひとつの希望を、テヘッと超圧縮しちゃうところでした」  美少女は光線銃(?)についたメモリをひねりながら告げる。 「モード設定確認良し、と」  指さしと声出しで確認をすませると、美少女はあらためて距離を取り直す。 「ひょっとしたら通じてなかったかもしれないので、もう一度言います。  篠崎一歩さん、死んでください」  光線銃を構えた美少女が、小振りで魅惑的な唇で改めて要求する。 「できれば、合意のもとで行いたいので『ハイ』って言ってもらえませんか?  うまく答えられないようなら、うなずくだけでもいいです」  どういう訳か、美少女は最初から最後まで徹頭徹尾俺に死んでくれと要求している。  そこには冗談の欠片すら感じられない。  つまり、どういう理由かは想像もつかないが、その手にした光線銃らしきもので美少女は俺を殺めたいらしい。  俺は美少女の懇願に、生涯最大級となろう声量で答える。 「ノー!!」であると。
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