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ピー、トゥルルルー……
そんな電子音に似た音が美少女の方から聞こえる。すると、それと連動するように、頭から伸びたアンテナみたいな髪が小刻みに震えだす。
「もしもし、例の案件、ちょっと交渉に難航中なんですが……」
まるで携帯みたいなノリで目に見えぬ誰かと話しはじめる。
どうやらあのアンテナみたいな髪は見たまんま受信用のアンテナらしい。
そんなことを思いながらも、美少女が電波を受信している姿を脳裏に焼きつけておく。
「……はい、はい、そうですよね。なんとしても説得は成功させます」
誰と話しているのかわからないが、どうやら美少女は俺を殺すことをあきらめてはくれないようだ。
ならば、いまのうちに逃げ出してしまうのが正解なのだろうけど、そのあまりにも希有な容姿は少しでも長く見ていたいという願望が俺の足に根を生やす。
「……はい、その件については大丈夫でしょう。
こちらの正体が露見する心配は皆無です。
はい、念のため偽装の方も施しておきます」
そんな会話を最後に、美少女は両手をおろして俺を振り返った。
「おまたせしました」
美少女は、逃げそびれた俺に笑顔で話しかける。
こんなに可愛い美少女に微笑んでもらえただけでも、「俺の人生って価値あったんじゃね?」なんてバカなことを思ってしまうが、さすがに死んであげられるわけがない。
どうせなら、もっといいことしてもらわないと。
いやいや、そうじゃなくて……
混乱に混乱、さらには混沌まで絡めたような脳内状況に、さらに説明が注ぎ足される。
「ロクな説明もなく、いきなり命を明け渡してほしいなどという不躾なお願いをして申し訳ありませんでした」
先ほどと異なる口調で美少女が頭を下げる。
路線変更?
いや、視線がチラチラと手にしたプレートを伺っているから、そこに書かれた文章を読んでいるだけなんだろう。見たことない文字を見ながら日本語しゃべってるって変な状況だけど。
「まずは、わたくしの素性をあきらかにしましょう」
それはなんとなく察しがついているような気がするけど……。
「わたくしは神の使徒、つまり天使です」
よりによって天使かよ。そのギンピカな格好で。
天使なんてうそぶくなら、せめて翼とか輪っかとかつけてもらいたい。彼女ならきっと似合うから。
「現在、人類はある岐路に立たされています」
「それって?」
「人類がこの先、手に入れるだろうと予測されていた幸福な未来から遠ざかりつつあるのです」
美少女はそう言って、銀色の指先でプレートをなぞる。すると、舞台背景が入れ替えられるように、周囲の風景が塗り替えられていく。
さっきまで土色と緑が主成分だった土手沿いの風景が、未来的なビルの立ち並ぶ世界に変わっていた。
自分の映像が出たときも驚いたが規模がちがう。まるで未来の世界に迷い込んだみたいだ。
金属色をした円柱状のビルが建ちならぶ街は機能的かつ衛生的。さらには、そこで生活する人々はみな笑顔で幸せそうな表情を浮かべている。
「どうです、みな幸せそうでしょう。これがあなたがた人類に約束された未来の姿です」
口元をゆるめた彼女が、どこか誇らしそうに言う。
「ですが、人類がこの未来に到達するには、必要な人物がいるのです。
その人物を仮にリーダーと呼称します。未来においてリーダーは、同種間での争いをやめられぬ人類をまとめあげるという偉業をなしとげるのです。
その結果、人類はさらなら発達と発展を遂げ、この平和で豊かな、笑顔の満ちあふれる世界を手に入れることができるのです。
ですが、いま現在のリーダーは、予定外の事故に遭遇し死にかけています。余命はわずか……数時間とないでしょう」
語り部の顔にかげりが見える。
「それって、いま見えてるこの世界が間違いだったってことじゃないか?」
「未来予知の精度は通常でも9割を超えています。今回は1割に満たない事故でそれが覆ってしまったのです。
おそらく今回の件は例外中の例外。
リーダーの回復さえ行えれば、未来はこんどこそ確定するのです。あらゆる機関の未来予知がその結果を保証してくれています」
…………。
美少女の必死な訴えを俺はどんな表情で受けていただろう。
偶然、近くにあった鏡に視線を向けたが、この世界が映像であるためだろう。俺の姿は映りもしていなかった。
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