彼女が空からやってくる

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「この春から大学いくことになってたんだよね」  過去を振り返るように、自分の事を話しはじめる。 「俺、施設育ちだから、大学に通うのに金だしてくれるようなヤツいなくてさ、奨学金とろうって必死に勉強したんだけど、それまで親友と思ってた級友に負けちまって……それで大学の試験自体は合格できたんだけど、金が用意できなくてフリーターやることになったんだ。  それでも、結局あきらめられなくて、勉強を続けながら必死にバイトを掛け持ちしてさ、三年がかりで金をためたんだわ」  あんまり金稼ぎに必死すぎて、まわりが怖がって声かけてこなくなるくらいに。 「なんのため、そこまでして大学にいきたかったのか、自分でもちょっと曖昧なんだけど、それでもさ……そこに通えばちゃんとした幸せってもんが、見えてくるんじゃないかって思ったんだ」  誰にも話した事のない。いや、いままで自分の中にくすぶっていた曖昧なものが言葉という形になってあふれ出していく。 「そんな、俺に死んでくれって言うの?」 「はい」 「そいつの事故って、ひょっとして俺がなにか関係してる?」 「してません」 「じゃ、俺が代償として選ばれたのは孤児で訴えでてくるような親族がいないから?」 「それもちがいます」 「だったら、どうせ大学なんか通っても、俺ごときじゃ、そのリーダーとかとちがって未来の役に立たないからってことか……」 「ちがいますちがいますちがいます。この件に関して、あなたにはなんの落ち度もありません」  目頭を熱くした俺の問いかけに、苦しむような否定が続く。 「それなら俺でなくてもいいじゃん。どうして俺なんだよ!?」 「それは……このムーベで移し代えられる命にはいくつもの条件があるからです。  そのすべてを満たしているのが、篠崎一歩さん……地球全部をくまなく捜索しても、あなたひとりだけだったんです」
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