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「だから、みんなの幸せの為、自分が死ぬのを了承してくださいってか?
そんなんできるわけねーだろ!」
俺の命を欲する死神に怒りの言葉をたたきつける。
「たしかに、あんたがみせてくれた世界ってのはすばらしいもんなんだろうよ。
でもよ、俺だって必死に努力して、ようやくつかみかけたもんがあるんだよ。
それを自分らの都合で捨ててくださいなんて言われて『ハイ』なんて言えるなんて思ったか?」
「ですが、あなたの了承を得られなければ、地球人類は最悪破滅しかねないのですよ?」
「それでも!!」
あくまでも、自分の理想的展開を口にし続ける美少女の言葉を遮る。
「例え全人類が明日滅びるとしても、俺は努力の果てにつかんだものを、自分から離そうだなんて思わない。
岩にかじりついてでも……いや、俺の命を狙うやつを返りうちにしてでも、絶対に幸せな未来を手にいれてやる!」
袖で顔を拭うと、天使を自称した殺し屋に宣言する。
「だいたい、あんたは「できれば」同意してほしいって言ってたよな。
ってことは、俺にこんな残酷な要求をせず、こっそりと事を済ますことだってできたハズだ」
「そんなこと言われても……」
人に命を差し出せと言っておきながら、曖昧でいいかげんな反応しかみせない美少女にフツフツと怒りがわいてくる。
「わかった、こうしよう。あんたらの意志をなるべく尊重しよう」
「ほんとうですか♪」
その表情はまぶしいほどに可愛らしく、それゆえに憎らしさが倍増した。
「ああ、どんな手段を使ってもかまわない。あんたが、あんたの意志で俺を殺せ。もちろん俺は全力で抗うけどな」
「ちょっ、ソレちっとも同意してないじゃないですか!?」
「あんたが俺を殺す事に成功したなら、それを同意とみなしてくれてかまわない。
いや、それ以外の方法じゃ俺は絶対にあんたらの提案に同意しない! 絶対にだ!!」
「ひどいです!」
美少女は悲鳴じみた声をあげるが、本当に酷いのはどっちだ。
「そもそも、俺は自分の本当の素性すら告げようとしない、あんたの言うことを信用していない」
「そっ、そんなことはありません。嘘なんてまるっきり、これっぽっちもです」
目をぐるぐると渦巻きにしながら、なおもバレバレの嘘をつきとおそうとする。
「ほら、篠崎一歩さんが望むのなら奇跡だってみせちゃいます。あれ、魔法でしたっけ? どっちでもいいですけど見せちゃいますよ」
それは魔法じゃなくて、現人類の理解を超えた超科学とかその手のものなんだろ。江戸時代の人間にテレビをみせて驚かすようなもんだ。
なおも抗弁を続ける美少女だったが、その動きは不意に止まった。それに合わせ、周囲の未来的な世界映像が、もとの田舎じみた土手沿いの道にもどっていく。ただし、姿を消した鉄塔はなくなったままだ。
美少女は、その場に直立すると、両手をTの字になるように広げる。
そして、その額のアンテナで、なにかを受信しはじめる。
いくつか連絡相手と短いやりとりの末、自ら化した天使設定も忘れて俺に告げる。
「いま、上司から連絡がありました。
リーダーの命がいま尽きたそうです」と。
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