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「俺がこの仕事を始めた理由?」 「はい」  机の上に置かれた解答用紙を赤ペンで採点しながら先生は言った。僕は増えていく赤の記号を目で追う。  ――先生はどうして塾講師になったんですか?  僕は先生にそう質問した。  大学入試は半年後だというのに自分のやりたいことが見つかっていないことに不安を覚え、身近な大人の意見を参考にしたかったのだ。  昔は高校教師をしていたという先生が何故塾講師に転職したのか、という純粋な興味もあったと思う。    しかし返ってきた答えは予想だにしないものだった。 「神様を殺すためだ」  答案から目を離さず、しかし適当に話しているような素振りはなく心底真面目な表情と口調で先生は続ける。 「神様ってのは人に願われて初めてその存在を認められる。だから俺は神様を殺したい」   先生の言葉をしっかりと聞いて。  僕はその意味を咀嚼した。 「そのために俺は塾講師になったんだ」  まったく意味がわからなかった。
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