追撃戦

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「……神乃馬(かんのめ)の蹄だ。敵を追撃して行ったんだ……この先に……居る」 霞谷は黒三月(くろみつき)に『伏せ』をさせ、後ろの伊藤を振り返った。 「伊藤一等卒、此処で下りろ。は追撃した友軍を追う。貴様は我々が戻るのを待て」 「此処に?一人で残るのですか?」伊藤は情けない声を上げた。 「そうだ。これから追撃に加わる。一刻も早く追い付かないと。は下ろして行く。……それに露軍の(けだもの)したくないだろう?」 「はい……曹長殿。り、了解致しました」伊藤は半泣き顔を晒しながら霞谷に従った。 伊藤を下ろすと霞谷は友軍、神乃馬(かんのめ)達の残した蹄跡を追って、一気に襲歩(しゅうほ)で駈け出した。 『お願い、頼むから間に合って』 冷たい月明かりの夜、凍てつく大地を黒三月(くろみつき)の硬い蹄が叩く音だけが響いていた。 同じ刻、藍原達九騎の騎兵はマスロフの伏撃地点に迫ろうとしている。マスロフは配置した監視の歩兵からの報告を受けると、伏撃待機の兵達に状況と伏撃の手順を伝達し、吐く白い呼気さえ立てない――正に息を潜ませる様命じた。 息苦しさに比例して、待機している兵達の緊張が頂点に達しようかという時、遥か彼方から地響きと共に冷え切った空気の振動が伝わって来た。 『く、来るぞ……この音は……騎兵か?』
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