惨劇

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巨大な怪物が一際激しく首を振ると、腕の付け根から千切れた体が吹き飛ばされ、遥か彼方に鈍い音を立ててめり込んだ。咥えたままの残った左腕を吐き出すと血にまみれた腕が地面に落ちて弾んだ。 その惨状を目の当たりにした塹壕内の四人の内、伊藤を除く三人は恐怖に駆られ塹壕を飛び出すと、小金井達の居る前方陣地を目指して斜面を駈け上がって行く。 巨大な怪物は、地面が震えんばかりの地響きを上げて逃げた三人を追って斜面を駈け登って行った。 一人塹壕に残っていた伊藤は、這い(つくば)る様にして塹壕を脱け出すと森の中に逃げ込み、身を隠した。彼は恐怖で全身が汗でびしょ濡れになり、失禁からくる尿の異臭に耐えた。そして今夜の惨劇唯一の生存者となる……。 後方警戒陣地がたった一匹の怪物によって潰滅したのと時を同じくして、左右両側面の警戒陣地も別の怪物の襲撃を受け全滅していた。 その頃には、前方陣地で指揮を執っていた小金井少尉も側背警戒陣地の異状に気付き始めていた。 「木下曹長、側背警戒陣地の兵はまだかっ?」 「伝令は出しましたがまだ来ませんっ」 「よしっ!もう一度伝令を出せ!」木下曹長にそう言って後ろを振り返った時、小金井は信じられない光景に目を見張った。
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