神乃馬

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「何故です?小官は騎乗技術も射撃も白兵戦も標準以上です!」 「……であっても、半人前の見習士官に変わりはない」 「他に理由があるとしか思えませんっ!」 「理由?あるとしたら、貴様が命令に従わない事だ。指揮官の命令に従わない者を戦場に連れて行ける訳あるまい」 そう言うと席を立ち、天幕覆(テント)を出て行こうと入口の覆いに手を掛けた。 その間際、霞谷は俯き歯を食い縛る様にして言葉を吐き出した。 「……自分が……男子では……ないから……ですか」 「鶉橋、梶本……時間がないぞ。準備を急げ」藍原が振り返らずに出て行った後の天幕覆(テント)内は、重い空気に充たされた。 「霞谷、中隊長殿が言われる以上は仕方無い。気にするな。中隊長殿も霞谷の力量はご存知だ。いずれ、嫌でも実戦に出る事になるさ。何しろ我々は敵より戦力的には劣っているんだからな」 鶉橋は屈託の無い笑みを浮かべて、霞谷の肩をポンと一つ叩き慰めた。鶉橋源一郎(うずらはしげんいちろう)は陸士※1出身の二十四歳で陸士では恩賜組※2のエリートだが、陸士出身将校に有りがちなエリート意識とは無縁の為人の持主だった。それ故指揮官としての将来を期待され、藍原からの信頼も厚い。 「鶉橋中尉殿の言われる通りです。見習士官殿も、遠からず戦闘に加わる事になるはずです。其迄の辛抱ですよ」 ※1:陸軍士官学校の略称 ※2:陸軍士官学校、陸軍大学等での成績優秀者
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