特襲騎兵、西へ

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霞谷が中隊主力を追って宿営地を出た頃、藍原が率いる中隊主力――九騎の騎兵は神乃馬(かんのめ)の体力温存を図り、速歩の合間に常歩を入れつつ行軍を続けていた。予定している行軍行程の半分程の距離を進出すると、幾つかの友軍前線宿営地で構成された警戒線越えた。 此処から先は、敵味方が互いに斥候部隊を繰り出して毎日の様に小競合いが起きている地域だ。 何時何処から弾が飛んで来て、敵と遭遇戦になるか分からない――その緊張感から九人の騎兵の視覚、聴覚、嗅覚といった敵を感じる為に必要な感性はこれ以上無い程に研ぎ澄まされていた。 それは彼等が騎乗する神乃馬(かんのめ)も同じで、時折前に左右に後ろにと、ピンと立った耳を動かしては周囲に注意を向けているのが鞍上からも見て取れる。 陽の落ちきった戦場を慎重に歩みを進める九人と九頭は、次の通りの一列従隊であった。 先頭から笠原(かさはら)伍長(乗馬 青捜騎(あおそき))、吉田(よしだ)伍長(乗馬 黒騎尾(くろきび))、草薙(くさなぎ)軍曹(乗馬 鹿毛疾風(かげはや))、梶本(かじもと)曹長(乗馬 栗東風(くりこち))、藍原(あいはら)大尉(乗馬 青流鬼(せいりゅうき))、鶉橋(うずらはし)中尉(乗馬 鹿毛朧(かげろう))、秋庭(あきば)軍曹(乗馬 栃明星(とちみょうじょう))、香村(こうむら)伍長(乗馬 栗勝鬨(くりかちどき))、(やなぎ)伍長(乗馬 青鹿要(あおかなめ))の順。 やがて九騎は一つ目の前線監視哨陣地の一つに辿り着いた。簡易な塹壕と土嚢で作られたその陣地は正に今、完成したばかりで、積まれた土嚢に背中を(もた)れている幾人かの歩兵の姿が見えた。
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