特襲騎兵、西へ

6/9

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
「此処に騎兵部隊は来なかったかっ?」 先程、藍原達を案内した若い兵卒が、再び小隊長に報告し、霞谷を小隊本部迄案内した。大沼は再び現れた巨大な軍馬に驚いたが、その理由は先程とは少し違っていた。 「これは驚いた。あんな巨大な軍馬は初めてだが、今度は騎兵とは……」 「少尉殿、此処に九騎の騎兵が来た筈です。何処に向かいましたかっ?」 「おい、小娘!貴様、先ず名乗れっ!」 「失礼しましたっ!小官は独立第百一中隊、霞谷曹長であります!」霞谷は自分の早計さに赤らめた顔を誤魔化さんばかりに、殊更大音声で答えた。 「それで宜しいっ。俺は第三十四連隊、大沼少尉だ。貴様の上官は友軍最西翼陣地に向かわれた。貴様、一人で追うのか?」 「はいっ、そのつもりであります」 「この先、何処で露軍に遭遇しても不思議は無い。危険だぞ」 「小官は一人ではありませんっ。この軍馬が居ります。後を追いますので失礼します!」 真剣な眼差しで叫ぶ霞谷を見て、大沼は内心ニヤリとした。『この小娘は……まあ、いい。行きたいのだな……』そう思いながら敢えて強い口調で答えた。 「霞谷曹長、気を付けて行け!敵と出会(でくわ)したら躊躇せずに倒せ!でないと貴様が死ぬぞっ!」 霞谷は其迄の緊張した固い表情から、パッと明るい顔色に変わり声を弾ませた。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加