特襲騎兵、西へ

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「ありがとうございます、少尉殿!肝に命じます。失礼致します!」 霞谷は、武骨な言葉の裏に隠れた、自分を案じる大沼の気持ちに感謝しつつ、西方の友軍陣地目指して黒三月を走らせた。 霞谷が大沼達と別れた頃、藍原率いる中隊主力は目指す最西翼陣地の手前迄迫っていた。 其の藍原達の行軍を間道脇の茂みから息を殺して見詰める人影があった。其の影は初めて見る巨大な軍馬を駈った騎兵の群れに驚愕し、友軍らしいとは思いながら間道に出て助けを求める事を躊躇した。 そして、巨大な軍馬の群れの出現に一瞬忘れていた、発汗と失禁から来る冷えを体が思い出し身体中を震わせた。 そう――彼は藍原達が目指す最西翼陣地を守る、いや守っていた小金井小隊唯一の生き残りである伊藤一等卒である。彼は藍原達が去った後、再び茂みに身を隠し敵の出現に怯えながら只管(ひたすら)寒さに耐えた。 藍原達が通過してから小一時間程過ぎた時、眠りに堕ちそうになる意識を地鳴りの様な響きが引き戻し、目を覚まさせた。 地鳴りがする方に目を凝らすと、先程目撃した巨大な軍馬が、今度は群れでは無く一頭で此方に向かって来るのが見える。 身に付けている装備や軍服はやはり友軍の其らしい……。今度こそ助けを求めなければ死ぬ――。そう本能的に感じた伊藤は、茂みから間道に這い出す様に身を乗り出した。
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