特襲騎兵、西へ

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伊藤は思い出したく無い、先程小隊に起きた惨劇の有様を霞谷に話した。 「そうか……間に合わなかったか……。伊藤一等卒、他に騎兵部隊を見なかったか?」 伊藤が騎兵部隊の通過した事を伝えると、霞谷は親指を立てた片手で黒三月の腰の辺りを指した。 「伊藤一等卒、後ろに乗れっ」 「……え、ええっ?に乗るのでありますかっ?」素っ頓狂な声を上げて伊藤は鞍上高い霞谷を見上げた。 「とは何だっ!?急げっ!時間が無い。これは命令だ」そう言うと黒三月に『伏せ』をさせると、伊藤を鞍の後ろに乗せて再び立ち上がった。 伊藤は驚き思わず霞谷の背中にしがみついて訊いた。 「何処へ行くのですか?曹長殿」 「決まっているだろう。西だ、友軍騎兵と合同する。おい、伊藤一等卒。余り執拗にしがみつくな。落馬しない程度にしておけ」 「も、戻るのでありますかっ?あ、彼処に……」伊藤は再び素っ頓狂な声を上げた。 「行くぞっ!」二人と一頭は再び西を目指して駈け出した。 霞谷が伊藤を拾い上げた頃、其の地点から約五キロ先――小金井小隊が守備していた監視哨陣地に藍原率いる中隊主力が漸く到着した。 此処からこの夜最後の戦闘となる夜間追撃戦が始まろうとしていた。 其れは日露両軍――露西亜獣化兵と日本特別襲撃騎兵にとって初めての遭遇であり、今般日露戦争終結迄続く激戦の始まりであった。
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