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最西翼に位置する、監視哨陣地の後方警戒陣地に達した藍原達、九騎の騎兵は思わず息を呑んだ。
陣地や塹壕の辺り一面に死体が散らばっていた。其等の中には明らかに銃で撃たれたり、銃剣や洋刀で突かれたり斬られたのでは無い死体が混ざっていた。いや、寧ろ其方の方が多いと言えた。
其れは首や腕等体の一部や、其等が欠損した胴体だけの死体等、五体がバラバラになった凄惨極まるものだった。
「……これは……酷い状況ですね。中隊長殿」梶本が鼻を突く血と硝煙の臭いに口許を歪めて、傍らの藍原に囁いた。
「……露西亜の獣兵か……」友軍将兵の無惨な有様を見て、藍原も露軍に対しての憎悪を噛み締める様に呟く。
其所へ、本部陣地と周辺の警戒陣地に部下を遣わせた鶉橋中尉が戻り報告をした。
「中隊長殿、此処の監視哨陣地で生存者は居りません」
「そうか、ご苦労。此れより露軍を追撃する。笠原を呼んでくれ」
警戒陣地の状況確認に行っていた笠原伍長は直ぐに戻り、藍原の横に乗馬である青捜騎を寄せた。
「中隊長殿、笠原参りました」
笠原歩伍長は、中隊所属騎兵の最年少の二十歳。まだ幼さの残る童顔が印象的な若者である。
「笠原、我々は此れより露軍を追撃する。ついては、露軍の撤退経路を正確に辿らねばならん。其所で貴様と青捜騎に其れを探って貰いたい。頼むぞ」
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