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「了解致しました。露軍撤退路を探索致します」そう言うと、まだ散らばったままの友軍将兵の死体――何者かに食い千切られた体の一部、その断面に青捜騎の鼻先を近付けた。
笠原が騎乗する神乃馬、青捜騎は中隊配備の十頭の神乃馬の中でも特に嗅覚と聴覚に秀でた一頭。体格こそ他の神乃馬より小振りだが、その優れた嗅覚と聴覚から中隊の哨戒、捜索任務には欠くべからざる存在となっている。
笠原は食い千切られた体の断面に付着した露軍獣兵の体液を青捜騎に嗅がせて覚えさせると、臭いを辿れる様手綱を緩めてやった。
笠原の其れに応える様に青捜騎は地面に鼻先を寄せる。そして其所に染み込んだ血肉の異臭の中から野獣の痕跡――その体液の臭いを捜して鼻孔をヒクつかせている。
数十秒の間、其所此処の地面を探っていた青捜騎はある一点を執拗に嗅ぎ始め、やがて頭を上げると監視哨が置かれた斜面上――稜線の延びる先を向き、右前肢を上げた。
「中隊長殿、見付けました。敵は稜線を少し下った辺りを通って撤退した様です」
鞍上から青捜騎が臭気捜索している様子を見ていた笠原が、その若さからは想像出来ない程落ち着いた声で報告した。
「よし、此れより露軍の追撃を開始する。笠原と青捜騎は先導せよ」
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