追撃戦

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中隊の九騎は笠原を先頭に稜線付近のなだらかな斜面を進み始めた。月明かりに照らされた地面には、僅かに人の靴と思われる足跡と明らかにそれとは違う大きな動物らしき足跡が印されている。其れを見つけた笠原は 藍原に報告した。 先頭迄馬を進めた藍原は自ら其れを確認すると、其の跡は行く先迄ずっと続いているのが分かる。 「よし、此処から駈歩(かけあし)行軍で追うぞ。笠原は引き続き先頭を行け。何か異状があれば直ぐ知らせろ」 中隊は駈歩(かけあし)で行軍を再開し、露軍の後を追った。体重一千キロ超に達する神乃馬(かんのめ)九頭の駈歩(かけあし)行軍は圧巻だったが、これは同時に自軍の存在を暴露する可能性もあった。 其れを承知の上での藍原の選択であったが、結果として此の賭けは裏目に出る事になる。 藍原達が追撃を開始した頃、日本軍陣地を襲撃した露西亜軍部隊は其の日本軍陣地から五キロ程離れた所を撤退中であった。 此の地点に至って、露西亜軍指揮官スミノフ少佐は敵の追撃に備えて後衛戦闘部隊――所謂(いわゆる)殿(しんがり)』を後置する命令を発した。其の兵力は歩兵一個小隊と獣兵、実戦試験の目的で送られて来た新火器――迫撃砲一個分隊で、指揮はマスロフ大尉に任された。 「マスロフ大尉、貴官に後衛戦闘を命じる。此の場所で伏撃(アンブッシュ)して追撃部隊が来たら撃退せよ。本隊撤退の為一時間、時間を稼いだ後、撤退。一時間待機して追撃が無ければ撤退して本隊に合同せよ」
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