追撃戦

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「了解しました。後衛戦闘部隊の指揮を執ります」マスロフは短く答えると本隊から抽出された部隊を纏め、手早く配置した。 マスロフは伏撃地点の手前三百メートルの位置に歩兵三名を遣り、其所から元いた日本軍陣地迄の緩やかな下り坂を監視させた。獣兵と他の歩兵は間道脇の茂みに待機させ、迫撃砲分隊は撤退方向側の間道上に配置する。 マスロフの戦術は間道脇に伏撃させた獣兵と歩兵で奇襲した後、迫撃砲の火力支援のもと撤退――と言うものであった。 其所まで戦術を組み立てたマスロフであったが、内心は『追撃は無いに越した事はない。そうすれば全員が宿営地に無事帰れる……』そう願っていた。それは単純に勇猛果敢な軍人ではない彼の為人を示すものだった。 マスロフが伏撃準備を終え、藍原達が其の伏撃地点に迫ろうとしている時、霞谷達は襲撃された日本軍陣地に達していた。 「……これは、酷いな。伊藤一等卒、此処が貴様の居た陣地で間違いないな?」霞谷は未だに血生臭い異臭立ち込める陣地を見渡し、顔を歪めた。 「は、はい。曹長殿、間違いありません。やはり、誰も……」伊藤の声は見知った者達の無惨な死に様を目の当たりにし、悲しみで震えていた。 霞谷達は陣地周辺を常歩(なみあし)で歩きながら探っていると、幾つもの並外れた大きさの蹄の跡を見つけた。
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