追撃戦

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その蹄音(ていね)の近づいて来る方向に目を凝らす。 『うっ!で、でかい……何てでかい馬なんだ。本当に馬か?』 神乃馬(かんのめ)の巨体に圧倒されつつもマスロフは傍らに控える獣化兵に、手信号を交えながら『襲撃』を命じた。 マスロフから『襲撃』の命令を受けた、藍原達が言う所の『露軍の(けだもの)』は身体を被う蒼白い毛を逆立たせ、大きく切り開かれた口から異臭を放つ涎を垂らしながら、沈んだ色合いの濁った(まなこ)を細めて低く小さく唸った。 マスロフはその様を見て『声を上げるな』とばかりに睨むと、直ぐに視線を月下に照らされた間道に据えた。そして、巨大な馬を駈る騎兵の一団が刻々と迫って来る様を視野に収めた。実戦経験の豊富なマスロフをしても、緊張から早くなる鼓動を押さえる事は出来ない。それはこの場に伏撃している露軍全体に言える事だった。 緊張を身体中に充填した露軍将兵が息を潜める中、日本騎兵の一団は迫って来る――三十メートル、二十メートル、十メートル……。 日本騎兵の先頭を行く笠原伍長と青捜騎(あおそき)が目の前を通過しようとした刹那――露軍獣化兵の蒼白い毛に被われた太い腕が茂みから飛び出し、鋭利な鉤爪が笠原を襲った。 先頭を駈ける笠原はその半瞬前――青捜騎(あおそき)の見せた僅かな反応を見逃さなかった。青捜騎(あおそき) の耳が僅かに右方向に動いた瞬間、笠原は右脹脛で馬腹を右手綱で右頸を押して左側へ横跳びをしようとした。青捜騎(あおそき)も笠原の扶助に瞬時に反応して左側へ大きく跳ねた――。
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