追撃戦

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その瞬間、笠原の頭部右数センチを鋭い爪が空を切る。 「敵の伏撃有りっ!右より襲撃っ!」横跳びして崩れた体勢を立て直しつつ、笠原は後続の友軍に警告すべく叫んだ。 笠原の警告を聞いた後続する八騎の騎兵は、藍原を中心に前衛三騎が右に後衛四騎が左にと素早く展開すると、襲撃に備えて臨戦体制を執る。 「白兵戦用意!総員抜刀!」藍原の号令で騎兵達は鞍に付帯させた斬獣刀を鞘から抜き放った。 斬獣刀(ざんじゅうとう)――正式名を三十七年式対獣軍用刀というそれは、日本陸軍が対露軍獣兵の為に配備した三大装備、神乃馬(かんのめ)、三十年式騎兵銃改強装弾仕様と並ぶ対獣兵白兵戦用軍刀である。 日本陸軍は少ない経験則から、露軍獣兵を制圧する手段は――脳を破壊する、心臓を停止させる、脳からの命令神経の遮断つまり首を切り落とす、の三つしかないとの結論を出していた。その為の斬獣刀は、奥出雲産の高純度の玉鋼を当代の名刀工が鍛えた業物であり、獣兵の鎧の如き肉を断ち、装甲の如き骨を砕ける唯一の刀剣であった。 獣化兵による奇襲に失敗した露西亜軍は、茂みの中から小銃で射撃を仕掛けて来た。露西亜軍歩兵のシモン・ナガン小銃の乾いた発砲音が散発的に響いたが、初めて見る神乃馬(かんのめ)に動揺した為か、初弾が日本軍騎兵を捉える事は出来なかった。
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