追撃戦

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露西亜軍歩兵の発砲音が鳴り止むか否かの間で、間道の左右に展開した日本軍騎兵は一斉に露西亜軍歩兵が潜む茂みに乗り入れた。 間道右の茂みには先頭の笠原・青捜騎(あおそき) 、吉田・黒騎尾(くろきび)、草薙・鹿毛疾風(かげはや)、梶本・栗東風(くりこち)が、左の茂みには鶉橋・鹿毛朧(かげろう)、秋庭・栃明星(とちみょうじょう)、香村・栗勝鬨(くりかちどき)、柳・青鹿要(あおかなめ)が露西亜軍歩兵の群れに踊り込む。 露西亜軍の歩兵達は急いで次発装填するべく小銃の槓桿(こうかん)を引き排莢(はいきょう)したが、次弾を撃つ間は彼等に残されていなかった。 至近距離に迫った日本軍騎兵の前では銃を撃つ事の出来ない露西亜軍歩兵はと言えた。或者は神乃馬(かんのめ)の巨大な蹄に胸を踏み付けられ、また或者は馬上の騎兵から斬獣刀で斬り倒された。 先程迄の伏撃による戦術的優位は吹き飛び、間道両脇の茂みは露西亜兵の阿鼻叫喚に包まれてゆく。 その混迷の最中、一人マスロフだけは冷静に戦況を観ていた。彼は間道上に残り、部下達の戦闘状況を把握している藍原に目を付けた。 マスロフは傍らに控えている獣化兵に再び『襲撃』を命じ、間道上の藍原に向かわせると、自らは友軍歩兵が投げ出した小銃を拾い上げた。そして槓桿(こうかん)を押し込み薬室に次弾を送り小銃を立射で構えた。その銃口は静かに馬上の藍原を捉える……。
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