追撃戦

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藍原に向かった獣化兵は、その背後に回り込むと、四足で凍土を叩きつける様に駈ける。そして掘り起こされた凍土の欠片を撒き散らしながら、月明かりに光る蒼白い被毛を逆立たせて間近迄迫った。 一方藍原は鞍下の青流鬼(せいりゅうき)の耳の動きを見て、迫って来る獣化兵の存在を充分な間合いで見切っていた。 藍原は手綱を(さば)いて迫る獣化兵に青流鬼(せいりゅうき)の右側面を向けると、斬獣刀を構え対峙した。 正に野獣の如き速さで藍原に迫る獣化兵――。 藍原を捉え得る間合い迄来ると、鋭い爪を持つ腕を馬上の藍原目掛けて振り下ろす――。 藍原は振り下ろされた蒼白く人間の胴程もある太い腕を斬獣刀の最も身幅のある所で受け止めようと、目の前に掲げた。 人間相手であれば、どれ程強烈な斬撃も片腕で受け止めてきた藍原であったが、流石に獣化兵の打撃は堪えきれず、両手で辛うじて受け止める。それでも力押ししてくる獣化兵の鋭い爪が、ジリジリと藍原の額に近付く。迫る獣化兵の爪先を睨み付けて、苦悶の表情を浮かべる藍原の両腕が僅かに震えてゆく。 その時、鞍下の青流鬼(せいりゅうき)が一瞬馬体を沈めたかと思うと、四肢を一気に伸ばし藍原の体を押し上げた――。 青流鬼(せいりゅうき)の後押しに助けられた藍原が渾身の力で獣化兵の腕を払い除けると、獣化兵は体勢を崩して一歩後ろに引いた。
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