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藍原と獣化兵が格闘している其の場所から距離を隔てる事百数十メートル、其所にこの瞬間をジッと待っている男が居た。
小銃を構え、馬上の藍原を狙っていたマスロフは、組み合う藍原と獣化兵が離れた所を狙撃するべく呼吸を整えようと努めている。
そして待っていたこの瞬間を逃さず小銃の引き金を絞る様に引いた――。
次の瞬間、藍原の額から二十センチ程離れた空間を小銃弾が切り裂いた。
「糞っ!外したかっ!」舌打ちと共に苛立ち気にマスロフが語気荒く吐いた。
的を外したものの、その語気とは裏腹にマスロフは冷静を保っていた。一つ息を吐くと素早く排莢し、薬室に次弾を送る。
マスロフは確かに冷静だった――。しかしその意識は全て前方に向けられていた。例え全周に気を配っていたとしても、今だ激しい戦闘が続く騒然とした戦場では気付く事は出来ないかもしれないが……。彼の背後には生命を脅かしかねない危機が迫っていた。
次弾装填を終え、再び小銃を構えたマスロフは、周囲の人の雄叫びや殺戮の音色が奏でる戦場音楽の中に危険な異音を聞いた。
小銃を手に振り返った彼の目に飛び込んで来たのは――黒い巨大な塊。そして彼の鼓膜に甲高い雄叫びが響いた。
「いやああぁぁぁっっ!!」其所には雄叫びと共に斬獣刀を振り下ろす霞谷と黒三月の姿があった――。
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