追撃戦

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霞谷は藍原に攻め掛かる獣化兵の背後に回り込むと、片手に持つ斬獣刀の棟を肩に乗せて迫る。襲歩突撃で駈けている時、霞谷は初めて対峙する『敵』に憎悪ではなく何故か『昔日に覚えた感覚』を抱いている事に気付いた。ただ、その感覚の正体を知るのは後の事でこの時は抱いた感覚に違和感を覚えただけだった。 凄まじい勢いで獣化兵に迫り、その背中迄あと僅かという時、藍原を襲っていた獣化兵が此方を振り返った。涎を滴らせた大きく開かれた口と濁った(まなこ)が霞谷の目に飛び込んで来る。 それと同時に、獣化兵の鋭く大きな爪を持つ腕が此方に振り下ろされる。その爪先に捉えられる刹那――黒三月(くろみつき)が寸前で踏み切り、大きく跳んだ。 黒三月(くろみつき)が跳躍した直後、踏み切ったその地面を獣化兵の爪が割り、大穴を穿つ。其の瞬間、凍土の欠片が四方に飛び散り冷えた空気を切っていく。 霞谷は獣化兵を飛越する黒三月(くろみつき)の上からその背中に斬獣刀の一太刀を振るった。しかし、斬獣刀の切先は確かに蒼白い被毛の背を捉えたが、切り裂く事は叶わなかった。 『やはり、そうか……』霞谷は自らの斬撃をもって知った。蒼白い被毛の下は硬い甲皮で鎧われている事を。 獣化兵を飛び越え着地すると、怒気を含めた聞き慣れた声が鼓膜に響いた。
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