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獣化兵の肉、骨そしてまた肉と斬獣刀がへし斬る様に斬る感覚が、斬獣刀の柄を通して伝わって来る。
そして遂に霞谷の斬獣刀は、獣化兵の前腕を両断した。瞬間、其迄斬獣刀に掛かっていた重みから開放されると、霞谷は腕がフッと軽くなる感覚を覚えた。
獣化兵の左腕を両断した霞谷と黒三月が凍りついた大地に降りると同時に、斬り落とされた獣化兵の腕が鈍い音を立てて地面に落ちた後、弾んで転がった。
獣化兵の左腕切断面からは鮮血が噴き出し、忽ち凍土を真紅に染める。
瞬く間に広がっていくその血溜まりを見て、霞谷は不思議な感覚を持った。獣の血はもっとドロッとしたどす黒い物を想像していたが、目の前のそれは鮮やかな真紅であり、人の血を連想させる。それは先程、獣化兵に突撃を掛けていた時の感覚を思い起こさせた。
一方、左腕を斬り落とされた獣化兵は片腕を失ってなお、戦意をその巨体に漲らせている。切断された傷口から血を滴らせ、眼は敵意に盈ちた鈍い光りを放ちながら……。
剥き出した敵意其の儘に、上体を深く沈め攻撃姿勢を取った獣化兵が、霞谷に襲い掛かろうとした正に其の時――、号笛の高い長音が鳴り響いた。
其の響きを耳にした獣化兵は跳び掛かる寸前で動きを止めると、号笛が鳴り響いた方向を凝視した。
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