惨劇

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その一団の指揮官と(おぼ)しき人物は、長身を青み掛かった灰色の野戦外套で包み軍帽を被っている。軍帽の下には金髪の癖毛がはみ出し、青い氷の様な碧眼を光らせていた。 「日本の子猿どもが戦線を突出して来るというのは確かなのか?」男は風貌と一分も違わない冷たい声で傍らの男――ヴィクトル・マスロフ大尉に訊ねた。 「はっ!ここ数日、奴等は偵察活動を活発にしております。情報収集と前線警戒の両方から今夜も広い範囲で突出して警戒陣地を構築の可能性は大です。スミノフ少佐殿」 スミノフ少佐、そう呼ばれた長身の士官は僅に口許を歪めると白い息を吐いて呟いた。 「それでは狩りに行くとするか……」 側に立つマスロフはスミノフの言葉を聞くと後ろを振り返り、怒号を持って控える一団に命じた。 「第九百九獣化兵戦闘団、即時出撃準備っ!携行第一種装備っ!」 命じられた一団は踵を合わせて直立不動の姿勢で答えると、次の瞬間には命令を行動に移しばらばらと準備に掛かった。 第九百九獣化兵戦闘団――ユーリイ・スミノフ少佐の指揮下に置かれた部隊は、四個歩兵小隊と一個輜重兵小隊※1――そしてこの部隊最大の特徴である獣化兵二個小隊を擁していた。 本来なら、少佐の階級にある者が指揮下に置く部隊としては小規模ではあるが、それは露西亜陸軍内に新設される予定の新兵科――獣化兵の実験部隊の為であった。 ※1:兵站を担う兵科。弾薬等の物資の輸送と補給を行う。
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