8人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
この部隊の存在は、その秘匿性の重要度から陸軍内部でも必要最低限の一部にしか通達されておらず、部隊呼称は『スミノフ戦闘団』という名を与えられている。
今、そのスミノフ戦闘団は部隊運用試験の為、突出した日本陸軍部隊の一つを襲撃するべく出撃せんとしていた。
三十分後、スミノフ少佐に直卒されたスミノフ戦闘団は宿営地から月明りを頼りに、粛々と日本軍陣地を目指して出発して行った。今夜繰り広げられるであろう、惨劇の為に――。
一方、前線に突出した日本軍陣地の一つ、小金井小隊の警戒陣地では歩哨当直の交替が行われていた。
「歩哨交替、全周異状無し。現在の視程二キロ」
警戒陣地に掘った塹壕の前で、伊藤一等卒は同村出身の樫井一等卒に引継ぎを終えた。
此処は小金井少尉が命じた、小隊後方警戒陣地の簡易塹壕で、六名の兵士が任務に当たっていた。伊藤一等卒は引継ぎを終え、塹壕に座り込み体を休めた。野戦外套を通して塹壕の土の冷たさが伝わって来るのが分かる。
寒さに身震いをすると、横で小銃を抱え同じく座り込んでいる北野上等卒が話し掛けてきた。
「伊藤、ご苦労。今日は冷えるな」
「はい、上等卒殿」
「伊藤は独り身だったか?」
「はい、独身であります」
「早く嫁を取れ。嫁さんはいいぞ」そう言い外套の内側から写真を一枚取り出して見せた。
最初のコメントを投稿しよう!