惨劇

7/12

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
更に目を凝らしていると、後ろから三人分の足音が近づいて来た。 「近藤、どの辺りだ?」小金井小隊長の問いに銃口の先を睨み「銃口の先です」近藤は微動だにせず答える。 小金井は近藤の後ろに廻り、銃口の先を凝視した――その瞬間、見据えた先に発火する閃光を見た。同時に小銃弾が空気を切り裂く音が闇に鳴る。 『近い!此方を捉えているのか?』小金井は努めて平静を意識した。 「小隊射撃戦闘っ!伏射っ!目標下方!」 小金井の号令と同時に稜線の前方陣地から一斉に火線が稜線の下方に向けて放たれる。稜線下の敵も応射の火線を撃ち上げて来る。 小金井は浅い経験ながら、この状況を落ち着いて見ていた。敵の斥候部隊との遭遇は想定していたし、正面の火力からそれ程戦力差は無い。後は小隊の全火力で一時的に敵の攻撃を制圧して、宿営地の前方陣地まで後退すればいい。今回の命令受領の際、中隊長から受けた命令通りにすればいいのだ。小金井はそんな筋書きを頭の中で(なぞ)り、それを実行すべく側背の警戒陣地に伝令を出した。 だが、その側背警戒陣地では異変が起きつつあった。 小金井達の前方陣地のほぼ真後ろに位置する、後方警戒陣地では歩哨に立つ樫井一等卒がその聴覚に周囲の異状を感じていた。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加