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序
┈┈┈田舎にある大きな一軒家で大きな声が響き渡った。
「えぇ〜!! それでおかーさん、行かせちゃったわけっ!? 」
緩くパーマをかけた姫子は大きな口をより一層大きく開けてキッチンの椅子に座る母親にそう言った。
「……仕方ないじゃない。あの子たちが出ていくって聞かないんだもの。」
唖然となる姫子。
こんなこと、許されていいわけ、ない。
ブツブツと口元を動かす。
「通帳は渡しちゃったの!? 」
「そう。出て行ったあと聡が来たわよ。お父さんがいないタイミングを見計らってね。ものすごい形相だったから一旦は渡したわ。」
パクパクと口が上下に開く姫子。
「そ、そ、それでおとーさんはなんてっ!? 」
「出ていく時は怒鳴って怒ってたわよー。でも仕方ないじゃない。もう出ていったのよ。」
目を逸らして淑子はテーブルの上にあった茶菓子に手を伸ばした。
「あんたも食べなさいよ。ここの抹茶のチョコレート美味しいのよ?」
「おかーさん!! それどころじゃないじゃん! 何落ち着いてるのよ! 」
「……大丈夫よ。姫子。」
淑子はチョコレートの包み紙を丁寧に折りながら言葉を続けた。
「絶対に、帰ってくるから。」
「はあっ!? 」
「……あの子たちはね、まだ若いの。後悔して必ず帰ってくるわよ。まあ、みてなさい。」
┈┈そう言って淑子は不敵に笑った…。
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