313人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
「キツイね、それは」
藍子が言う。
「娘さんも、発見した息子さんもたまらないね…」
ぼんやりと詩織。
「そんなに大変だったんだね…」
楓。
「ご主人はどう?」
澪が聞く。
「自分を責めたみたい、もっとちゃんと向かい合えばよかったと。自分は逃げていたって言ってた、仕事にかこつけて。だから自分を責めて責めて。
その時にね、調べにきた刑事さんに言われたらしい」
「なんて?」
「仕方ないんですよ、突発的なことで本人もまさかこうなるとは思ってなかったようです、苦しんだような形跡もありませんでした。
もしも今回発見が早くて助かったとしても、また同じことを繰り返しています、止められないんです、僕はそういう事案をいくつも見てきましたって。そういう病気なんです、誰のせいでもないんですって。
それで少し気が楽になったって言ってた」
みんなは黙ったままだ。
「それからね、ご主人はこんなことも言ってた。みなさんは生きてくださいって、家族のことも大事だけどそれ以上に自分を大事にして、後悔しないように生きてくださいって」
一通り話し終えた。
「よし!生きるぞ!」
急に声を上げてグラスのビールを一気飲みしたのは楓。
「後悔しないように、か!うん」
「まだまだ頑張りますよ、私」
「え?なにを?」
「ま、とにかく、やり残したことがないようにさ」
「たとえば?」
「えー、でも旦那が邪魔!」
みんな好き勝手に話し始める。
「典子、頑張りすぎたんだよね?専業主婦って大変だもんね!」
「そうだね、もう少しわがままに生きてもよかったよね?」
「「献杯!」」
「典子、お疲れ様」
みんなそれぞれの思いを胸に、典子を偲んだ。
「何があるのかなぁ?私の人生にあとほしいもの…」
ぽつりと藍子が言った。
「なんだろうね、後悔しないような生き方ってね」
「このままだと、このまま過ぎていってしまうね」
「あっというまにおばあちゃんになっちゃうね」
「自分のこともできない旦那の世話と、介護と孫の世話…それだけで終わり?」
「いやいや…残りの人生それだけじゃ寂しいよ」
みんなそれぞれのこれからの人生を、思い描いていた。
今ならば、自由に使えるいくらかのお金、体、時間がある。
それがいつまで続くのか?ふと、寿命というやつを考えた。
最初のコメントを投稿しよう!