恋…楓目線

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そうだった、神田(かんだ)さんを見つけないと。 そのまま学習塾を見続けた。 しばらくして角を曲がったところから、見えた、赤いリュックが。 「あ、あれかも?」 慌ててスマホのカメラを向けて、ズームにする。 カシャ! 写真を撮って確認する。 赤いリュックに赤いスニーカー、間違いない。 会計を済ませて学習塾に向かった。 信号を渡り、さっき見たビルの入り口に立つ。 さっきは閉まってたシャッターが開けてあった。 階段を見つけて2階へ上がる。 心臓がドキドキしてるのは走ってきたからだけじゃない。 教室はまだ誰もいない、じゃあ、どこ? 見回して事務室を見つけた。 息を整えながらドアへ向かう。  「あっ、いた…」 廊下の窓から見えた横顔、細い黒縁の眼鏡、長めの髪。 こちらには気づいてない。 一度深呼吸する。 ふーーっ! 「こんにちは!」 ドアを半分開けて声をかけた。 「はい、え?」 「来ちゃいました」 「よくここがわかりましたね?」 まさか捜索してたとは言えず。 「えっと、あの偶然見かけてそして走って追いかけてきました、うん、偶然」 2回も『偶然』を口にする。 そう、探していたなんて言えない。 「どうぞ、中へ、散らかってますけど」 「いいんですか?入っても」 「まだ、学生も他の講師も来ない時間なのでいいですよ」 ➖やったー、これで話ができる!➖ 「裕一郎くんはどうしてますか?」 あ、息子の話ね。 「えっと、県外の大学へ行ったあとそっちで 就職してしまいました」 「そうなんですか、寂しいですね」 ➖あれ?なんかこの前話した時と違う➖ あの日ショッピングモールで話した時は、何を話していたのか忘れてしまった。 「…」 「…」 はからずも、沈黙が生まれる。 「あ、あの」 思い切って話をしないと、このチャンスを逃したら次はないかもしれない。 「なんですか?」 「LINE交換しませんか?」 「え、LINEですか?」 驚いた様子の神田(かんだ)。 ➖唐突過ぎたかも?どうしようっ、変なやつだと思われたら➖ 赤いリュックから、スマホを取り出した神田(かんだ)。 「はい、どうぞ」 そう言ってLINEのQRを見せてくれた。 「あ、ありがとうございます、えっとちょっと待って…あっ!」 カタンという音がして、自分のスマホを落としてしまった。 慌てて拾おうと腰を下ろした時、神田(かんだ)の赤いスニーカーが見えた。 縫い目がほつれて、小さなほころびがあった。 「クスッ」 思わず笑ってしまう。 「どうしました?スマホは大丈夫ですか?」 オシャレでもイケメンでもないこの(かんだ)が好きなわけがわかった。 気を遣わなくてもいい感じが、居心地がいいんだと思った。 この人のテリトリーの中にいたい、そんな気分だった。 「大丈夫ですか?」 もう一度聞かれた。 「はい、大好きです」
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