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1. 第一部
写真は真実を写すか?
答えは否、だ。
僕、深海李央は今、偽りの姿を撮られている。
ここはアイドルのグラビア撮影の現場。“女の子のアイドル”だ。にっこり笑って、または可愛く怒った顔をして、上目使いにポーズを決める。
僕は慣れない状況の中、顔の筋肉だけじゃなく、体の筋肉も非力学的なポーズによってつりそうになっている。
あー、かゆい!カツラが蒸れる。
こんなに大変ならアルバイトを引き受けるんじゃなかった。興味本位で安請け合いをしてしまったことを後悔している。
僕は、正真正銘男の子である。
「ハイ!リカちゃん!目線こっちちょうだい!」
はいはい。僕、リカちゃん、ヨロシクねって、本当に璃果ちゃんにそっくりな女装した自分の姿に少し恐ろしくなる。
“璃果”は、僕の双子の姉の名前。三年前に死んでいる。
その名前を借りて女装し、アイドルグループの一員として活動し始めたのは一ヶ月前だ。
グループのメンバーや撮影スタッフ、カメラマン、みんなは僕を女の子だと思っている。
十三歳の声変わり前だからできる芸当である。元々細身の体系も功を奏して我ながら中々の美少女ぶりだ。
しかし、双子とはいえ二卵性なのにこうまでそっくりとは、僕自身も驚きだ。
鏡の中に、生きていたらこんな風に成長しているであろう姉の璃果の姿を見つけ、その美少女に、切なさを伴った愛情を向けていることは、まぎれもなく事実だ。
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