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双子の姉の璃果は、個人の見解だけにおさまらない、本当に身も心も美しすぎる少女だったのだ……。
きっと、この世にはもったいない存在で、天使が連れて行ったのだと、どこまでも大真面目に僕は思っている。
『李央クン』
耳の中が一瞬でリフレッシュされるような、透き通ったあの声。僕を呼ぶ璃果の声が、まだ鮮明に頭の中にも、心にも、住み着いている。
「今日の晩飯はすき焼きだ」
「へ?」
唐突にこう言って話を逸らすのは叔父さんの得意技である。叔父さんの言動は意味が無いようでいて意味がある、ということに後で気付かされることがよくある。
オンオフの切替もスパッとしている。仕事の話は一旦終了ということだ。
「すき焼き? 本当? 給料日でもないのに?」
「今日、特売日だったんだ」
「牛肉? なわけないか、豚肉?って言ってもこま切れ?」
「豆腐の特売日だ」
「……」
なんだ。すき焼きっていうか、いつもの煮込み豆腐だろ。一応、とりの胸肉が入っていて美味しいと言えば美味しいが……。
無駄に心躍らされた感じが否めない。
「喜べ。卵も特売だった」
牛肉のすき焼きが食べたいと思うのが人情だ。
「あれ?不満?」
「いえいえ、滅相もございません。毎日あったかくて美味しいご飯が食べられるのは叔父さんのおかげです」
「とりの胸肉が一番体にいいんだぞ」
育ち盛りは牛肉が食べたいんだぞ、とは言えない僕は、とり肉大歓迎という気持ちに切り替えた。
叔父さんには絶対的な恩を感じている。それはきっと一生持っている感情だと、自信を持って言える。
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