1. 第一部 

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 三年前、僕の双子の姉の璃果が病気で亡くなった。不幸の連鎖か、その後すぐ両親がそろって交通事故で亡くなったのだ。 いきなり一人ぼっちになった幼い僕を引き取ってくれたのが父の弟であるこの叔父さんだった。 父と叔父さんは、十四歳も年が離れていた。僕が会う機会と言えば、叔父さんが家に遊びに来るお正月くらいだったから、あまり交流があったとは言えない。 お正月はお年玉をくれたが、お節を食べたらすぐ帰ってしまい、懐くような時間もなかった。 三年前、璃果が病気で亡くなり、僕はどん底に落とされた。さらに両親の事故死か続き、どん底のどん底には違いないが、これ以上ない不幸と悲しさに、逆に冷静にならざるを得なくなった。 自分は、これからどうやって生きていこうか、と十歳ながら現実に目を背けることはできない状況だった。 祖父母はすでに他界し、親戚は何人かいたが疎遠だった。僕はきっと、施設に行くことになるのだろなと漠然と考えていた。 忘れたいくらい苦しかったからだろうか。皆が亡くなってすぐの記憶がなく、気がついたらお葬式の日だった。 雨か、涙かわからないが、ぼんやりと曇った視界に、手が差し出されて『帰ろう』と言われたのを覚えている。防虫剤の匂いが脳に突き刺さり、特別な日であることを感じさせられた。 僕が取ったその手は、叔父さんのぎこちなくも優しい手だった。叔父さんは、僕の後見人として手続きをし、一緒に住むために広めのマンションに引越しもしていた。 僕は、馴染みが少ないとはいえ、父の面影をそこかしこに感じる叔父さんを、この先信じる覚悟を決めて手を繋いだのであった。
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