工藤探偵事務所へようこそ

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「所長、13時半よりお約束が一件入ってますけれど?」  事務仕事に追われている私の目を盗み、逃げ出そうとしていた所長の耳を引っ張りデスクに引き戻す。 「イデイデデイデ、もうちょっと優しくできませんかね、櫻子ちゃん」 「できませんね、優しくして欲しかったら給料を上げて貰えませんか?」 「……、いいよ、耳でも何でも引っ張っても」  だらしなく笑うイケオジはどうやら給料を上げるつもりはない。  無精髭にモジャパーマ、だけど顔立ちだけは奇跡的に整っているオッサンはこの探偵事務所の所長だ。  ヒョロ長いビルの1階には所長お気に入りの喫茶店、2階はこの『工藤探偵事務所』。  言っておくけどこのオッサンの苗字が工藤なのではない。  昔のドラマの再放送を一気見し、それに感銘を受け自分も探偵になろうと決めたらしく工藤でもないのに『工藤探偵事務所』を設立。  ちょっと頭のネジがぶっ飛んでいるこの人は、初めて会った時はもう少しマシだった。  たまたま、私と出会う前に散髪屋に行ってきたばかりだったらしいけれど、今にして思えば見た目に騙された。 「今日のアポって、また?」 「ええ、またですね」  ハアアと大袈裟に眉尻を落とす。
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