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今日のお客様は綾瀬静香さんとおっしゃる50代の女性。
ご主人の浮気の証拠が欲しいとのご依頼だ。
いつも簡単な依頼内容だけ電話でお受けして、その後所長が直接お会いし内容を細かくお聞きするのだ。
13時半きっかりにトントンと曇りガラスの扉を叩く人影。
「どうぞ」
ドアを開けた向こうには黒色のコートを着て、黒いサングラスをかけた品の良さそうなマダムが立っていらっしゃった。
「ご連絡しました、綾瀬と申します」
「お待ちしておりました、どうぞ中へ」
できるだけ柔らかな対応をするよう心掛けている。
ここに来るまでにきっと色んな不安事を抱えてらっしゃったのだから。
「所長、綾瀬さんがいらっしゃいました」
ワンフロアしかない事務所の中一応仕切りで区切られた場所で所長は顔を作って待っていた。
なんだかんだの熟女好きは、やはりワクワクして待っていたらしく。
二つずつ並んだ皮のソファーに長い足を組み待ち受けていた。
いつもならば、『ようこそ工藤法律事務所へ』とキザったらしく立ち上がり挨拶をするのだが、この日のオッサンは違った。
サングラスを外した綾瀬さんを見た瞬間、急に自分の顔を乙女のように両手で隠したのだ。
「櫻子サン、すぐに戻ります、5分で戻ります!! 綾瀬様、少々お待ちください」
私と綾瀬さんに一礼して風のように扉の向こうに消えて行った。
バタバタとした足音は階段を上へと昇っていく、何か忘れ物でもしたのだろうか?
このヒョロ長いビルの4階フロアは所長の部屋なのだ。
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