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5分もかからずに戻ってきた所長を見て驚いた。
さっきまで黒いヨレヨレスーツ、赤いシャツに白いネクタイという奇抜な工藤俊作スタイルだったのだが。
キッチリ折れ目の入ったグレーの普通のスーツに普通の白いワイシャツに普通の控えめな青いネクタイを締め、ひげを剃り髪の毛も分け目までビシィッと整えられた姿で現れたからだ。
「お、お、お待たせいたしました!! 静香先生!! 北条です、北条健吾です、覚えていらっしゃいますか?!」
90度? いやもう180度に折れ曲がるくらいのお辞儀を綾瀬さんに捧げている。
「北条、……、北条健吾くん、って。あの、第二中学の?」
綾瀬さんの顔がさっきまでの不安そうな顔から微笑みに変わる。
「はいっ、第二中学3年B組北条健吾です!! お久しぶりです!! 静香先生っ!!」
目を潤ませて綾瀬さんの手を握る所長、目元がいつもよりタレている。
「下で珈琲注文してきますね、ごゆっくりどうぞ」
絶対私の声なんかもう耳には入ってないんだろうな、と心の中で舌打ちをして階下にある喫茶店のマスターに珈琲を二杯注文し届けてもらう。
依頼者のお話は所長にお任せして私はこのレトロな内装のお店でマスターの入れてくれた美味しいキリマンジェロを飲んで待つのだ。
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