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観覧車
この日を、一生忘れることはないだろう。
スクリーンに流れる人生のスライドショウを眺めていると、自然とそんな言葉が浮かんだ。だがしかし、この催し物によると、どうやら遥の人生の半分は高校生だったことになるらしい。当時の友人達が用意したからだと、遥はひそかに苦笑した。つい来賓席に目をやると、この問題作のチーフである望美と目があった。画面にはちょうど、卒業旅行の写真が映し出されていた。
旅行とは名ばかりの小さな遊園地。卒業の熱にジリジリ照らされた少年少女は、学生服を脱ぎ捨てそこへ集まった。こども騙しの薄っぺらな笑顔の仮面で誰もがその下心を隠していたが、同時にそれをさらけ出そうともしていた。心臓が力強く波打つのとは裏腹に脚はなんとも頼りなく、もし三月に北風が吹けばあえなく飛ばされていたことだろう。ともかく、大人のふりをしたこども達にはただの遊園地が人生の重要な分岐点に見えていたに違いないし、実際問題、そうだった。
静かなゴンドラの中に、鼓動だけが鳴り響く。頬が強張る。二人には狭すぎる鉄の箱は、今や蒸し風呂のようだった。手が汗ばむ。喉の奥が震える。
「ねぇ」
遥が口を開く。観覧車か、自分か。一体どちらを中心に回っているのか判らない。つとめて、つとめて音を立てないように息を吸う。そこはまさに、一番高いところだった。
「好きな人って、いる?」
望美は遥と目があった。少しいたずらっぽく微笑みかけてくる彼女はまるで、あの頃と何も変わらないようだ。本当にそうだとしたら。彼女が望美の作品へと目を戻すと、ちょうど観覧車が映し出されていた。
望美は胸中に棲みついた、得体の知れないものを嘲笑した。彼女にとっての問題作は遥にとっては何の問題でもない。そんなこと、解っていたさ。そうやって自分自身に大人ぶっては、結局のところ、望美は同じところを何度も、何度も廻り廻っていた。
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〜短歌ご紹介〜
栗木京子
「観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生」
「想い出」というシンプルな言葉遊びが、後ろに続くたった14文字でものすごく重みをもって心へのしかかります。
君との関係性は?なぜ一生忘れないような想い出なのか?
とても想像力を掻き立てられる、名作です。
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