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「やっほ~っ」
電柱のある空の映像は消え、代わりに昼の青空が広がった。声の方向を向くと、空にはとんがり帽子を被ってほうきに乗った魔女が。
「はぁーい! 魔女っ子メグちゃんでーす!」
「へ? 魔女っ子?」
栗色の猫目、きゅっと上がった口元。帽子と胸元の青いリボンがぱたぱたとはためいている。妹の設定したエフェクトか、ほうきからはハートがきらきらと散っていて可愛い。
あたしは魔女の横、妹はあたしの横。手を繋いで空中に浮いていた。
風があたしの髪を舞い上げ、肌にぶつかってくる。強風だ。え、と思って下を向いた。
「飛んでる!」
当然足元には何もない。空気だけ。あたしと妹と魔女の遥か下には緑の大地が広がっていて、流れる川に沿って小さな家も点在していた。遠くには山というか、山脈。ひときわ大きな山の上には……なにあれ、ドラゴン?
「ひゃあああああ」
あたしはぎゅっと妹にしがみついた。
VRが発達した今。空を飛ぶとか海の中をダイビングとかの趣味が流行ってるけど、あたしは苦手。高い所は怖いし海の生き物も神秘を通り越して不気味。
「なんで空! なんでドラゴン!」
「えへへ。気持ちいいでしょー。お姉ちゃんと一緒に、一回飛んでみたかったんだ」
「あたしは無理無理無理ーー!」
「ごめんごめん。お姉ちゃん、高い所苦手だったもんねー」
妹が軽い調子で謝った。もう!! いつもそうなんだから。
「もんねー、じゃないよ。分かってるなら連れてこないで。下ろしてーー!」
叫んだ途端、ぱっと映像が切り替わる。紅葉した森の中。カサコソと足に伝わる地面と落ち葉の感触にホッとする。
「こんにちわ。おや、娘さん。顔色が悪いね。お茶でも飲んでいくかい」
「クッキーもあるよ」
「え、くまとうさぎ?」
大きなきのこのテーブルと椅子でお茶会をしているくまとうさぎ。いきなりのメルヘンな光景にあたしはぽかんとする。
「お姉ちゃん、ファンタジー好きでしょ? 私もね、お姉ちゃんが読んでくれるファンタジーの本、好きだったんだ。だからそれの再現」
「ほら、座って座って。一緒にお茶を飲もうよ」
「クッキーもあるよ」
くまたんが手招きした。つぶらな瞳に鋭い爪のない、デフォルメされたふんわりとした手。
くまたんの対面に座るうさたんは、絵で見ると違和感なかったけど、うさぎの割に大きい。くまと比べたら特に。
このうさぎとくまは、くまたんとうさたんのお茶会っていう絵本。大好きで、何度も何度も妹に読み聞かせた。
「お邪魔します」
きのこの椅子に腰かける。弾力があって思ったよりも安定していて、座り心地がいい。
「すごい」
じわーっと胸が温かくなった。くまたんとうさたんのお茶会はとってもワクワク楽しそうで。こうやって一緒にお茶をするのが小さい頃の夢だった。
あたしは後ろを振り返る。
「魔女っ子メグちゃん」
「はぁい」
片手で立てたほうきの柄を持ち、片手を腰に当てた魔女がウィンクしてくれた。
そうだ。彼女は大好きだった児童書のヒロインで、小学校低学年の間は妹と一緒に何度も読んだ。そういえば二人で、メグちゃんと一緒に空を飛べたらいいねって言ってたんだ。
本当に体験したら、怖くて無理だったけど。
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