あたしから、妹へ。

5/7
前へ
/7ページ
次へ
「私はここで何でも出来るけど、お姉ちゃんは現実で何でも出来るよね」  ぎく。少し前の考えを見透かされたあたしは、動きを止めた。妹もスキップをやめる。 「現実のお姉ちゃんって何でも出来るのに。起きるのは苦手だったよねー。起こすのはいつも私。ふふ。もう起きなきゃ駄目だよ、寝坊助お姉ちゃん」  まあ、確かに。あたしは朝起きるのが苦手で、いつも妹が仮想空間から大音量で起こしてくれてたけど。 「何言ってるの。あたしは今起きてるよ。もう、寝ぼけてるのはあんたの方でしょ。どっちかというと、今から寝る時間じゃない」  妹が電話をかけてきたのは夜の12時。それから二時間ほどたったから夜中の2時くらいのはず。  寝転んでVRにいるのだから、寝ていて夢を見ているのと同じようなものかも。だからそんな風に言うんだよね。でも残念。VRと夢はすごく似ているけど、違うんだから。 「うん。そうだねっ。私はそろそろ寝ないと」  妹が白く光る空を見上げた。眩しい木漏れ日が逆光になって、妹の表情が見えない。 「お姉ちゃん。これからは遊ぶのも彼氏作るのも、存分にやりなよね」 「だから生意気だって」 「いいから、約束!」 「もー。分かった。約束ね」 「絶対だよ」  逆光の中、嬉しそうに妹が笑った。見えないのに、はっきりと分かった。仮想空間だから。  ピコン。電子音がして、妹の体が蝶になる。青い翅が羽ばたく。ひらり、ひらり。光る鱗粉が雪のように彼岸花に降って白く光らせて。 「じゃあね、お姉ちゃん」  唐突に、通話が切れた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加