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「私はここで何でも出来るけど、お姉ちゃんは現実で何でも出来るよね」
ぎく。少し前の考えを見透かされたあたしは、動きを止めた。妹もスキップをやめる。
「現実のお姉ちゃんって何でも出来るのに。起きるのは苦手だったよねー。起こすのはいつも私。ふふ。もう起きなきゃ駄目だよ、寝坊助お姉ちゃん」
まあ、確かに。あたしは朝起きるのが苦手で、いつも妹が仮想空間から大音量で起こしてくれてたけど。
「何言ってるの。あたしは今起きてるよ。もう、寝ぼけてるのはあんたの方でしょ。どっちかというと、今から寝る時間じゃない」
妹が電話をかけてきたのは夜の12時。それから二時間ほどたったから夜中の2時くらいのはず。
寝転んでVRにいるのだから、寝ていて夢を見ているのと同じようなものかも。だからそんな風に言うんだよね。でも残念。VRと夢はすごく似ているけど、違うんだから。
「うん。そうだねっ。私はそろそろ寝ないと」
妹が白く光る空を見上げた。眩しい木漏れ日が逆光になって、妹の表情が見えない。
「お姉ちゃん。これからは遊ぶのも彼氏作るのも、存分にやりなよね」
「だから生意気だって」
「いいから、約束!」
「もー。分かった。約束ね」
「絶対だよ」
逆光の中、嬉しそうに妹が笑った。見えないのに、はっきりと分かった。仮想空間だから。
ピコン。電子音がして、妹の体が蝶になる。青い翅が羽ばたく。ひらり、ひらり。光る鱗粉が雪のように彼岸花に降って白く光らせて。
「じゃあね、お姉ちゃん」
唐突に、通話が切れた。
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