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二週間後。あたしは退院した。退院後は、アパートを引き払って両親と実家に戻ることにした。
妹の機器、妹の薬、妹の食事、妹の介護。
どこもかしこも妹一色の空気に耐えかねて、出て行った実家に。妹が死んで、やっと。
妹が亡くなったという事実は、中々飲み込めなかった。頭が真っ白になって、遠い世界、他人事みたいで、実感がわかない。
お葬式に退院は間に合わなくて、あたしは病院のベッドの上で妹の遺影と対面した。
にっこりと笑う遺影に写る妹は、制服を着ていた。VRで撮った写真だから。
現実の妹は、現実の高校には通っていない。オンライン授業を受けていて、ダウンロードした仮想空間用の制服を着ていた。
あたしは一時期、心肺停止に陥って、本当に危なかったのだそうだ。そしてあたしが危機を脱したのと入れ替わるように、心不全で亡くなったという。
ピンポーン。
「はーい」
「お荷物です」
玄関で交わされる母と宅配業者さんのやり取りをぼんやりと聞く。しばらくして母が段ボールを抱えてやってきた。荷物の中身は缶ビール。冷蔵庫の在庫ゼロで、注文していたあの缶ビールだ。
あの時あたしは事故で意識不明だったのに。注文はきっちり通っていたのだ。宅配業者から連絡がきたので、届け先を実家に日時も退院後に変更してもらっていた。
ガムテープをはがして、段ボールを開ける。綺麗につまった六缶パックの上に、封筒があった。
「?」
今時注文書や領収書は紙で発行しない。なんだろう。
封筒を開けると、出てきたのは折った便せんだった。可愛らしいそれを開く。
『おねえちゃんへ。あんまり飲み過ぎちゃ駄目だよ。こっちに来るのはずーっと先にしなきゃ。それと、約束守ってよね。妹より』
「……っ」
小さな頃から愛されるのはカワイイ妹。
小さな頃から、愛してた、カワイイ妹。
デバイスを起動して、あたしは手紙を送る。送り先は妹のアドレス。もう存在しない、そこへ送る。
『妹へ。
飲み過ぎないよ。そこに行くのはずーっと後。だから見ていて。待っていて。絶対絶対、約束は守るから。
お姉ちゃんより』
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