覚醒と狂気の間

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  私が夢から醒めなくなったのは一週間前からである。それでは一週間前までは現実にいたのかと聞かれると答えに詰まる。 とにかく現実であり得ないことが起こっている。それだけは確かだ。私の周りの人が皆んなおかしい。いや私がおかしいのか。腹を刺されて笑っている警官なんているのか。 とにかくどっちかがおかしいのだ。夢の中ならあり得る。だから私は醒めない夢の中を彷徨っているんだ。もし現実なら警官はうずくまり私は現行犯として逮捕されるだろう。 私は事もあろうに白昼堂々と上半身裸になりナイフで自分の腹を刺した。強烈な激痛がした。これでこのおかしな夢から醒めるだろう。私は元の現実に戻れるんだ。 私は夢から醒めた。 拡声器から大声で「お前は包囲されている。早く人質を渡しなさい」という声が聞こえてくる。私は若い女性の首を絞めていた。誰だ、この女は。私が力を抜くと女が激しい咳をした。 女の喉に私の手形がはっきりと残っている。女は手足を縛られている。私は身に覚えがない。窓を開けると警察からのサーチライトで何も見えない。私は両手を上げた。そうしたら激しい銃撃を浴びた。私は蜂の巣にされた…はずだ。だが痛みがない。私は振り返って女を見た。大声で笑っている。私の腹を抉って銃弾を掻き出そうとしている。おかしい、何かがおかしい。こんなことは現実にはあり得ない。私はまだ夢の中を彷徨っているようだ。誰か起こしてくれ。俺は気が狂ったのか。女は銃弾を柿の種のように噛み砕いて「おいしいわ」と言った。私ははみ出た臓物を見て泣き叫んだ。
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