選んだきっかけ

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選んだきっかけ

俺の名は奥田ヤスト。ついこの前まで、ブラック企業の清掃会社に勤めていた…… 今は農業関係の仕事に就いているのだが、皆は[室内栽培]と言うものをご存知だろうか? 水や培養液、そして培養土(ばいようど)などを使ってミニレタスなどの小さい野菜を主に育てている。 初めてきた際見学するうちは、これを毎日一定の室温に保って季節に関係なく作れると聞いた瞬間、内心とても驚かされた。 外で栽培されている野菜ほどボリュームがあるわけじゃないけれど、出荷された物は旅館やホテルなど一部の店舗内にある食堂やJAやスーパーマーケット類まで納品されるらしい。 「………」 俺は驚きのあまり言葉を失った。何故ならばそこで見たものは、俺と同等かそれ以上な程に障がいと言う名の[特性](または個性)を持っている老若男女が、共に働いていたからである。 「障がいを持った者同士」がいがみ合ったりまたは楽しく笑いあったり叫んだりしながら、有意義な時間を共に過ごす。 その特化した[特性]を活かせる作業をそれぞれが行なっているその職場は、どの企業とも違う雰囲気であった。 入社後の挨拶をする際、緊張していた俺は正社員である現場リーダーの一人に促され、その場に集っている面々に向けて挨拶した俺。 にこやかに笑いかけてくる者、無言で無表情のまま遠いところを見るような目で俺ではなくホワイトボードを見ていた者、舌打ちをして鬱陶しそうにこちらを睨んでいた者な様々な人達がいて俺は仕事が終わるその時まで、戸惑いを隠せなかった…… 「奥田さん、見ての通り個性の強い子ばかりで驚かれるでしょうけど、根は良い子ばかりですので嫌ったり決めつけたりしないであげてくださいね?」 「は、はい……」 現場リーダーの一人から控えめに諭されたが接し方が分からないまま、俺はこの1年間を通じていろんな人達との会話を試んできた。 最初は口を開いてくれなかった面々も、今では普通に話しかけてくれるようになった。 今では作業もそうだが、ほぼ全ての作業員と打ち解けており順調な毎日を送ることができている。 俺がこの職種を選んだ理由は三つある。 一つ目は農業大学校と呼ばれている場所で約四ヶ月程度だが、農業関係の勉強をしに行っていたのだ。 せっかくそこで学びに行ってきたのだから、せめて農業関係の仕事を選んで安心した生活を送りたかったからである。 二つ目は後になって判明した事だが、俺も障がい者だった事をハローワークに置いていた「発達障がいとは?……」といった具合に書かれていたチラシ裏に書かれている、簡単なチェック表に目を通したりお試しで自分もやってみたら載っている項目の過半数が当てはまってしまった為、確かめに行ったのがきっかけである。 最初俺は親に話そうとも考えていたが、過去に母親から「精神病院の類はやたらと複数の薬を処方して飲ませてくるよ?今よりももっとおかしくなるからやめなさい!」と言われて来た事を思い出し、内緒で確かめに向かった! その結果、俺自身発達障がい者だったと判明… その事に少し驚かきはしたが、不思議と納得していたので取り乱すことは全く無かった。 だから、そんな俺でも安心して働ける場所を探そうと動いていたら今日まで働けている会社を無事に見つけることができたのである。 そして三つ目に選んだ理由は…自由とゆとり。 この会社での給料収入は今までと比べて少ないけれど、有給休暇や厚生年金が完備されており仕事開始時間が朝10時と言うおいしい所だ。 これまで我慢してきた分、初めて報われたとこの時ほど感じた事はない…… 俺がこの職場で何年働いていけるのかは生きていかないとわからない。 だが、必要以上に責任追求する人間がこの会社にやってこない限り、少しでも長く働きたいと俺は心の底から感じている。
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