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次によっちゃんに会ったのは、またいつもの廊下の、自販機の前だった。
私はペットボトルのB.B.レモンにするか、缶のセブンナップにするか、紙パックのイチゴミルクにするか悩んでいた。
「おだんごちゃん」
声がして振り向くとよっちゃんだった。首元が少し伸びたふわふわした黒いニットを着ている。痩せてるからそういう服も男の人なのに似合っていた。
あの頃は心の中でお兄さんからよし君さん、って呼んでたと思う。
「あ、こんにちは」
頭を下げて、また私は自販機に向き直った。
「何飲むの?」
よっちゃんは私の横に並んで立った。横を向くとちょうど彼の顎先が見えた。別にこの人はイケメンでもないのに、横顔がきれいだって思うのはどうしてだろう。
「……悩んでます。もう十分くらい」
隣でよっちゃんが噴き出した。
「全部飲んだらいいじゃん。どれ?どれが飲みたいって?」
怒ったり笑ったり忙しい人だなあ。いつもは無表情なのに。
そう。私はいつの間にかよっちゃんを見つけると目で追っていた。ステージでの演出や映像のスタッフだと知って、その場所に目を向けると大体よっちゃんがいたから。
「今一番はイチゴミルクです。次はセブンナップ。だけど缶だから一気に飲まないといけないから諦めます。いつものB.B.レモンにします」
「じゃあさ、イチゴミルクとB.B.レモン買いなよ。俺もちょうどセブンナップ飲みたいから、それ半分こな」
よっちゃんはさっさとセブンナップを買ってしまった。
「紙コップとか持ってるんですか?」
「そんなわけないだろ?面白いこと言うなあ。はい、買った買った」
押し売りみたいにして、よっちゃんは私を自販機に押しだす。イチゴミルクとB.B.レモンを買った。
「はい。これ飲んで。好きなだけ飲んで余ったらちょうだい」
よっちゃんはプルタブを開けて、セブンナップを渡してくる。
「え? いいです!」
私は必死で固辞した。
「おだんごちゃんは頑固ちゃんだなー」
おだんごちゃんもいい加減恥ずかしい。今日はお団子にしてないよ。
「あの、茉優です。高瀬茉優って言います」
「あ、まゆちゃんって言うんだ。俺は長束頼和」
ながつかよりかず。やっぱりあの時見た名前で合ってたんだ。
私達は中庭に出てベンチに座った。結局私はセブンナップはもらわずにイチゴミルクを飲んだ。
「うわっ!つめてえ!」
真冬にソーダは冷たいと思う。もしかして私が悩んでたから買ってくれたのかな、より君さんは別に飲みたくなかったのかも、と思った。
「長束さんは、大学何年生なんですか?」
「俺? 今三年。茉優ちゃんは?」
「一年です」
「だと思った」
そう言ってよっちゃんはクスクスと笑った。
「あのさ、クリスマスイブの日、暇だったら友達とおいで」
一枚のフライヤーを取り出して渡してくれた。お洒落なデザインのそれは、
「クリスマス・パーティー?」
「うん。大学の有志でやるんだ。俺の名前言えばチケ代無しですぐ入れるから」
「え、でも……タダじゃ申し訳ないです」
「それより人が来てくれる方が嬉しいから。友達とでも彼氏とでもおいで」
「か、彼氏は……いません!」
何でそんなことをわざわざ言ったのか、自分でもよくわからなかった。余計な情報だよ!
「えー? そうなん? 茉優ちゃん彼氏がいるからそんなに堅いのかと思ってた」
私を覗きこんで、またよっちゃんは笑った。
揶揄われてる。私は何だか恥ずかしくなった。
「あ、あの、もう私行かないと!」
「お、そっか。じゃあ時間があったら遊びに来て。じゃあな」
立ち上がった私に、よっちゃんは笑って手を振った。
行こうか行くまいか悩んだけど、専門学校の友達のケイちゃんを連れて、クリスマス・パーティーに行った。港にある貸し倉庫が会場になっていた。
「あの、長束さんの知り合いなんですが」
受付の人にそう言うと、
「長束??……あ、ヨリか! おい! ヨリ、女の子たち来てんぞ!」
大声で受付のお兄さんがよっちゃんを呼んだ。音楽が鳴ってるし聞こえないと思うけど。
「入っていいよ。ヨリ、あそこにいるから」
お兄さんが指さした向こう側によっちゃんがいた。いたけど、見た目が全然違う。髪をセットして、ジャケットを羽織っていた。
ぼさぼさじゃない! ふわふわでもない!
ボンヤリしてる間に、手の甲にハンコを押されて、私はケイちゃんと倉庫の奥に入った。
「ねえ、茉優、どの人?」
「あの、ジャケットの人。髪の横を撫でつけてる……」
「えー?あんな人うちの学校に来てるっけ?そこそこかっこいいじゃん!挨拶しに行こ!」
ケイちゃんは積極的な子だから、ショートカットの耳に揺れるピアスをキラキラさせて、物おじせずによっちゃんに向かって行く。
「ほら、こんばんはって言いなよ!」
「長束さん、こんばんは」
ケイちゃんに無理矢理言わされた私の声を、よっちゃんは気付いてくれた。
「おー、茉優ちゃん。いらっしゃい」
「友達のケイちゃんです」
「こんばんは!」
こんばんは、とケイちゃんに挨拶した後、よっちゃんは私の頭を触って言った。
「今日はお団子が二つなんだな」
「あ、触ったら崩れるから駄目です!」
首を縮め、両手で頭を守ろうとした私の手によっちゃんの手が触れた。
「あーごめん、どうなってるか見たかったから。じゃあごゆっくり」
私には目を合わせず、ケイちゃんにニコッと笑ってよっちゃんは人ごみに紛れた。
「あーあー。何やってんの茉優」
「何が?」
「素直に撫でられとけば良かったのに」
呆れ顔でケイちゃんが私を見る。
「長束さんのこと、嫌いなの?」
「嫌いじゃ、ないけど……」
「そんなんじゃ、いつまで経っても彼氏できないぞ~?」
ケイちゃんが私のおでこをコツンと指でさした。
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