「うさぎサンタの等価交換」

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この時期になってくると、おもちゃ屋は特に忙しくなってくる。 親達が子どものプレゼントを買いに訪れるからだ。 おもちゃをクリスマスツリーが描かれた赤い袋に包み、キラキラしたリボンを飾り付けて、 「ありがとうございました!」 笑顔で手渡すと、お客も笑顔で受け取って「こちらこそ」とお礼を言ってくれた。 あの顔が自然と出てしまうぐらい、こっそりと置くのが楽しみなのだろう。 そんなことを勝手に思いながら、次のお客の対応をした。 「……あら」 思わずそんな言葉が零れてしまった。 小学生ぐらいの男の子が、特撮の合体ロボの箱をやっとの思いで持っていたのだ。 意外と重い物だ。 「大丈夫?」と手助けしようと手を出したが、「結構です」とキッパリと断られてしまった。 (か、可愛くな…!) 疲れもあってか、余計にその子の態度に腹が立ってしまっていた。 どうにか笑顔を張り付かせて、「一人で買いに来たの?えらいね」 「これは、どのぐらいしますか?」 (無視か…!) 「バーコード通すから、ちょっとお姉さんに貸して貰えるかな?」 今度は素直に渡してくれた。 受け取り、バーコードを通し、液晶画面を見せながら、値段を告げる。 男の子は、首から下げているそれも同じく特撮ヒーローが描かれた財布を開け、会計の台に置いた。 「これで足りますか」 「ちょっと待っててね」 数え、表示に出た値段を照らし合わせる。 …千円足りない。 少し考える。 と、とっさに思いついた案をすぐに行動に移す。 「ちょうどお預かりしま─」 「足りなかったんですか」 拾おうとした手が止まった。 「足りてるよ」 「そうですか」 それでも、人のことを疑っている目を向けてくる。 (え、えっ?何なの、この子。自分でどのぐらい出せば足りるかわかってるの?私試されてる?) 額から汗が滴っているような錯覚になる。 さっさと拾い、会計を済ませ、「クリスマスのこの袋に入れますか」と訊くと、頷いたので、ぱっぱとやり、「はい、どうぞ!」と手渡した。 「気をつけて持って帰ってね、ありがとうございました!」 その荷物を抱え、ヨロヨロとしつつも、その子が店を出ていく後ろ姿をつい見守ってしまい、並んでいたお客に急かされ、対応しているうちに帰ってしまったようで、次に見た時にはいなくなっていた。
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