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そのまま寝てしまっていたらしい。
ベッド近くの窓の叩く音と激しい歌声に目を覚ました。
「も〜、誰だし〜」
眠たい身体を無理やり起こしてそちらに目を向けた途端、固まってしまった。
薄ピンク色のうさぎのぬいぐるみが窓を割らんばかりに叩いていたのだ。
そもそもなんで、そこにいるのか。ぬいぐるみが動いているのか。
疑問は尽きないが、このままにしておくと窓を割りかねない。
とりあえず、開けることにした。
「Hey!! Hey!! 応えて誰かいませんか?─」
「いや、なんでその曲なんだし」
「この曲好きだし、応答を願いたいから。その程度も分からないのかよ」
表情も変えないままそう毒づいた。
フリルをふんだんに使われた、サンタのような可愛らしい格好をしているクセにこの言いよう。
(めちゃくちゃ可愛くない…!!!)
殴りたい衝動に駆られ、拳を振り上げる直前であったが、理性でどうにか抑えた。
「おっと、思わず素が出てしまった。ゴホン…なかにいれてくれてありがとウサー!そんなよいことをしてくれたキミにほしいものをひとつだけあげるウサよー!」
その場に飛んだり、両手を広げたり、身振り手振りを大げさにやったりと、急にあざとさ全開を見せつけてきた。
(しかも、語尾に『ウサ』って!見た目も相まってあざとすぎるでしょ)
この変わりようは一体。
「見た目がサンタの格好をしているから、そのような要求してくるってわけ?」
「そうウサ〜」
「欲しいものねぇ……」
すっかり酒が抜けきった頭で考え始める。
顔も性格もいい彼氏…は、二次元で事足りてるからいいし、次の就職か、腐るほどの金にまみれながら一生遊んで暮らすか…。それにしたら、次の就職のことを考えなくてもいいかも!
「決めた!有り余るほどのお金─」
「あ、そういうの無理なんで。人生甘く見ないほうがいい」
ベッド上でぴょんぴょん跳ねていたうさぎのぬいぐるみが、突然跳ねるのを止め、言葉を遮った。
「…は?そういうの最初に言ってくれない?」
「うさみん、ごさいだから、いうことをわすれちゃうウサなの〜。ごめんウサ〜」
両手を合わせて、小首を傾げ、目をウルウルさせているかのような表情を見せつけてきた。
いちいち癪に障る。
多少苛つきながらも「ん?」と言った。
うさみん?ごさい?
改めて、自身のことを「うさみん」と言ったうさぎのぬいぐるみを見る。
そういえば、どこかで見たことがあるような………。
「あ…あぁああああっ!」
真夜中だというのにところ構わず叫んでしまった。
隣の部屋の角刈りお兄さんにシバかれるな、これは。
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