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─至極普通の家庭に、両親と二歳違いの姉弟がいた。
姉弟は喧嘩を一切した事がなく、いつも一緒にいるぐらいの仲良しだった。
だから、互いの影響なのか、弟は女の子向けの物を、姉は男の子向けの物を好きになっていた。
そこまでは良かった。
ある日のこと、両親に見つかってしまい、ひどく怒られた。
おかしいんじゃないのか。男の子が女の子のを、女の子が男の子の遊びをするわけがない。弟はなよなよしたり、姉は可愛くない、怖がられたり、友達にバカにされる、と。
ありとあらゆる罵詈雑言を浴びた。
ここまで怒られたことは無かった。しかも、理不尽な大人の言い訳で。
最後にはこう付け加えられた。
「親の言うことを聞けない子は、サンタさんからのプレゼントはありません」
何かが崩れる音がした。
なんでどうして、そうなるの。
喧嘩したわけでもおもちゃを壊したわけでもないのに。
親の都合の良い言い分を聞かなかっただけで、サンタさんからのプレゼントがもらえないの。
だったら。
両親が去り、隣で泣いている弟の手を引き、お気に入りのヒーロー物のバッグを持って、家を出て行った。
向かう先は、おもちゃ屋さん。
弟が欲しがっていたうさぎのぬいぐるみを買って、渡した。
「わたし達は何も悪いことをしてない。だから、わたしが代わりにサンタさんになってあげる。泣かないで。いい子だから」
「でもっ·····それじゃあ、おねーちゃんのサンタさんは、ぼくがなるっ!」
「·····ありがと」
「だから、今からおねーちゃんの欲しいおもちゃを買ってくる!」
「雪斗·····っ!?」
元来た道へ走る弟の後ろを姉は追う。
あともう少しで追いつきそうだと思っていた時、ガードレールを突き破って歩道へと、弟の方へと車が迫ってくる。
足を竦ませる弟。
その手から落ちる、うさぎのぬいぐるみ。
目と鼻の先に迫る車。
全てがスローモーションのように見えた。
弟を守らないと。
地を蹴った姉は、手を精一杯伸ばし、弟を抱きしめるのを成功したのと同時に強い衝撃が走った。
目が回りそうなぐらいの勢いで転がり、アスファルトに強く体が打たれ、呻く。
すごく痛い。
腕の中にいる弟も「·····いたい」と泣いていた。
弟の頬から血が出ている。
ケガしちゃったんだ。早くばんそうこう貼らないと。
でも、なぜか手が上手く動かない。
視界が赤く染まっていく。
どんどん霞んで、弟が「おねーちゃんっ!」と泣き叫ぶ声が、遥か遠くに聞こえた。
答えてあげないと。
そう思うのに、目が開かない。
そうして、何も聞こえなくなっていき。
意識を手放した。
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