3.開けてはいけない扉

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 一馬さんには彼女がいないはず。いるなら、私を利用しなくてもいいわけだし。  そう解釈して、私はキッチンへ戻った。 「なゆさん、兄貴といつ籍入れるの?」  食器棚から洋皿を取り出していると、ハルくんが後ろから声を掛けてきた。 「それは……まだ決まってなくて」  しどろもどろになりながら私は答える。 「兄貴、なゆさんのこと褒めてたよ。素直な子だから、いい奥さんになりそうって」 「そう、かな。そうだといいな」  私の笑顔はたぶん、引きつっているに違いない。  私と一馬さんを心から祝福してくれているハルくん。彼を騙していることに、罪悪感を覚え始めた。 「そろそろ兄貴が帰ってくる頃だよ。それまで居るでしょ。何だったら一緒にカレー食べていけば?」  気を利かせたハルくんは、そう提案してくれる。 「うん……、そうだね」  後片付けをして、エプロンを外したとき。 ちょうど玄関の方でドアの開閉される音が聞こえた。 「あ、帰ってきたみたいだね」  リビングの扉を開け、ハルくんと廊下に出ると。  トタトタ、と小さな足音が駆けてくる音がした。  その音はハルくんが出入りしていた一番奥の部屋からで── 「パパ、おかえりー」  3歳くらいの小さな女の子が私の腰元を通り過ぎ、一馬さんに駆け寄っていく。 「……ただい、ま」 「いい匂いがしたから、お腹が空いて目が覚めちゃった」  満面の笑顔の女の子に抱きつかれ、靴を脱いでいた一馬さんの顔が引きつった。
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