1.結婚願望

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 地味で冴えないのは事実だし、強くは言い返せなかった。  本人に悪気はないのが、叶多さんの憎めないところ。 「あいつ、口は悪いけど、慣れれば大丈夫だから。根は優しいヤツだしな」  なぜか叶多さんが一馬さんのフォローをし始める。  私は疑問に思い、首を傾げた。 「──へ? そんなに口が悪いって感じではなかったですよ?」  むしろ優しそうだった。  誠実なフリして実は、裏の顔はかなりの毒吐きだとか? 「そう……? 深瀬には最初から優しいのかな」  叶多さんはきょとんとした表情で軽く首をひねった。 「まだ初対面だから優しくしてくれたのかもしれませんね」 「それもそうか。そういえば、佐々木とは連絡先交換したんだろ?」 「はい、一応。素敵な人を紹介してくださって、ありがとうございました」 「次に繋がるといいな。深瀬の印象どうだったか、俺からもさりげなく聞いておくわ。とりあえず深瀬に紹介できて良かった。──じゃ、またな」  このあとも用事があるのか、役目は果たしたと言わんばかりに、叶多さんは片手を上げて背を向ける。 「あ……」  呼び止める間もなく、叶多さんの姿は人混みの向こうへ消えていった。  おかげで私は、3日後に一馬さんと会う約束をしたことを言いそびれてしまったのだった。
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