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2.偽装婚約
星が瞬く夜、一馬さんは待ち合わせの駅まで車で迎えに来てくれた。
白のステップワゴンで広々とした車内。
会社帰りなのか、前と同じように清潔感のあるスーツを着ている。
「今日の格好も可愛いね」
褒め慣れている感じで、一馬さんは助手席の私を見てさらりと言った。
今夜の私は、清楚に見える紺地に白のドット柄のワンピースを着ていた。
「いえ、そんなことは……」
いつもの癖で否定してしまうと、一馬さんが軽くため息をついた。
「素直に“ありがとう”って言えばいいのに」
低く洩らした言葉を、私は聞き間違えたかと思った。
「お世辞、言ったわけじゃないんだから」
「…………」
黙って一馬さんを見ると、彼はハンドルを軽く握りながら優しく目を細めていた。
怒っていたわけではなかったようで、ホッとする。
「私……自分に自信がなくて。どうせお世辞だろうし、何か裏があるかもと思って謙遜とかしちゃうんですよね」
一馬さんは話しやすいタイプなのか、つい、密かな悩みを打ち明けていた。
「そっか。それは勿体ないよ」
「……そうでしょうか」
どうやったら自分に自信が持てるのか、街角の人に聞いて周りたいくらいだ。
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