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3.開けてはいけない扉
次の日の夕方。
ライトグレーのコットンワンピースを着て、一馬さんのマンションへ向かった。
50%offで買った、洗濯のしやすい安物の服というのは私だけの秘密。
料理を作るだけだし、そこまで気合の入ったよそ行きの格好はしなくていいかと思ったから。
また、あの意地悪な人に『地味』と言われそうな服装だったけど、つい楽な方を優先させてしまった。
「なゆさん、来てくれてありがとう」
笑顔で私を迎え入れてくれたのは、ハルくんだった。
濃紺のブレザーを着ていたから、まだ学校から帰ったばかりのよう。
私は家の中をこっそりと目で探った。
廊下の奥に2つ、リビングの奥に1つ。
アンティークな感じのプレートが掛かった扉は、確かに3つあった。
絶対に開けてはいけないと言われた、3人の兄弟たちの部屋……。
「なゆさんが来てくれて、ほんと助かるよ。僕、野菜すら切ったことがなくて」
エプロンを着けてキッチンに立ち、カレーに使う野菜をトートバッグから取り出していると、ハルくんが後ろから話しかけてきた。
「そうなの? 料理って、やってみると結構面白いよ」
リビングの方を振り返ったとき、ハルくんはエンジ色のネクタイに細長い指を引っ掛けて緩めているところだった。
その仕草に、可愛さよりも男っぽい色気を感じ、一人頬を赤らめてしまう。
高校生相手にドキドキしたって意味がないのに。
「お米はこっちにあるから」
私のすぐ後ろを通ったハルくんは、キッチンの奥にある食品庫らしきドアを開けてみせた。
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